昨日、OM研究所で、現在進行中のプロジェクトの打合せがあった。
出席者は、
野沢正光:
OM研究所所長・
野沢正光建築工房主宰
半田雅俊:
半田雅俊設計事務所主宰
宮崎聡太郎:OM研究所所員
迎川利夫: 「
東京町家」プロデューサー
OM研究所(元吉村設計事務所)応接室
プロジェクトの議論も一段落し、話はちょっと余談になる。
OMソーラーも、考案されて20年近くになり、その間日本の住宅建築環境も大きく変わった現在、本当にOMソーラーが必要なんだろうかという話題になった。
確かに、
室蘭工大の鎌田教授が言うように、これだけ気密断熱性能が優れた住宅をつくれる環境が整った現在、OMソーラーを付けるとオーバーヒートしてしまう可能性がある。お湯採りするだけならば、あんな大げさな設備はいらない。すでに、OMソーラーの使命は終わったんじゃないか・・・。確かに一理ある。
そもそも、僕がOMソーラーに興味を持ったのは、省エネルギー性ではなかった。と言うより、省エネルギーにほとんど興味がなかったと言った方が正しい。
ではなぜ、OMを始めたかというと、デザインをより自由にしたかったから。当時、吹き抜けの家をつくったり、大きなワンルーム空間をつくると、冬場の暖房対策が大きな問題になった。そんなこと考えずにノー天気に大空間をつくる設計者も沢山いたが、そんな家に住む人はたまったものではなかった。結局、玄関吹き抜け、ワンルーム空間も場合によってガラス戸や折戸で仕切れるようにするのがせいぜい。少し予算に余裕がある場合のみ、温水式床暖房を組込み、気持ちよい大空間を実現していた。新築祝いで呼ばれて行くと、実に気持ちよい空間を味わい、自分でも満足していた。ところが、メンテナンスでお邪魔した時、その寒さに驚いた。住まい手に聞くと、ランニングコストにびっくりして、お客様が来る時は床暖房を使うが、普段は小さなファンヒーターで暖を採っているので、寒いとか・・・。
ショックでした。空間にしか興味を持たず、住まうことを忘れた住宅設計者を馬鹿にしていた自分が、結果として彼らと同じ事をしていたのだ。
そんな時に、OMソーラーを知った。
けして暖かいとは言えないが、寒くない程度の環境がつくれる。足りない分だけ補填すれば快適な環境を維持できる。これならワンルーム空間だろうが吹き抜けだろうが、自由な空間をつくって、快適に生活できる。補助暖房で吹き抜けを昇った暖気も、リターンで床下に戻され足元を温める。快適な生活を担保した上での自由な空間設計にOMソーラーは欠かせない技術になった。
気密性・断熱性が一般的に非常に向上した現在、OMソーラーなしでも、わずかのエネルギー消費で、温熱的には快適な空間を得ることが可能になった。しかしそれに伴うリスクも内在していた。つまり、高気密化で空気が漏れないために生ずる室内空気汚染。高断熱のためにペアガラスの大型テラス戸は開け閉めに大きな力が必要。それらがシックハウス症候群や高齢者のバリアという新たな問題になった。結果としてシックハウス法ができ、暖めた空気を24時間捨て続けなくてはならなくなり、捨てた分の暖かさをエネルギーを消費して補わなくてはならない「いたちごっこ」が始まった。現実問題としては、24時間換気のスイッチを切って生活する人も、多数発生するだろう。
OMソーラーは、夏の夜間、冬の日中大量の外気を室内に採り入れて換気している。高気密・高断熱にこだわらなくても、それと同等以上の快適温熱環境をつくることができるとすれば、やはりOMソーラーを使うメリットは大きいといえる。つまり高気密・高断熱という重い鎧に身を包むより身軽なTシャツで同じ環境がつくれるのならば、デザイン上の自由度は飛躍的に良いと言える。
反対に、せっかくOMソーラーを搭載したにもかかわらず、そのデザイン的意味を理解せずに、鎧の様な家をつくっている場合、それは正しく鎌田教授が言う無駄なことをしているという指摘の通りと思うし、現実的にそのようなOMソーラー住宅を多々見かける。これは、大いに反省しなければいけないことだ。
応接室の障子を閉めたところ。これが有名な吉村障子(別の機会に解説予定)
「東京町家」の場合、まず室内空気質を汚染する建材を、極力使わない。その上でOMソーラーで室内温熱環境を整えながら換気する。重いからテラス戸を小さくするのではなく、シングルガラスでも障子と組み合わせて、必要な断熱性を確保しながら快適な大開口を実現する。積極的な熱的収入があるOMソーラーは、わずかの熱を漏らさないように不自由なデザインを強いられる住宅より、ずっと有利だし、それを活かさなくては意味がない。また、小さな家にすることで、つくる時・住まう時・土に還す時の消費エネルギーを最小限に抑えることができる。
また、先日も「
OMソーラーの本質」に書いたように、単なる暖房だけではなく、「目に見えない空気と熱をデザインする」事が、今後のOMソーラーの技術として求められている。
そういう意味でも、「東京町家」では、快適空間をつくるためのいろいろな挑戦をしていきます。ご期待ください。